札幌医科大学医学部泌尿器科学講座教授塚本泰司

1.教室の沿革
  当講座は昭和25年札幌医科大学創立と同時に皮膚泌尿器科学講座として発足,初代教授として小室秀一郎教授が就任した.昭和26年9月に2代目として戸塚岩太郎教授が,昭和31年2月には3代目として高井修道教授が就任した.昭和39年11月には泌尿器科学講座として独立した.昭和43年8月には4代目として熊本悦明教授が就任し,平成7年7月に塚本泰司教授が5代目として就任し現在に至っている.外科系臨床講座として,外科手術の質的・量的向上に努めているが,研究面でも臨床研究・基礎研究に力を注いでいる.主な研究領域は尿路生殖器腫瘍,男性科学(Andrology),尿路性器感染症,排尿障害などである.

2.研究内容
1)尿路生殖器腫瘍
  臨床的には後述する外科治療の他,進行癌に対する予後改善をエンドポイントとする新たな抗癌剤レジメ,集学的治療の確立を目指している.基礎研究としてはPPAR-γの腎細胞癌における発現,そのリガンドによる増殖・apoptosis誘導・血管新生抑制の研究が行われている.腎細胞癌に関しては,IAP familyのlivinの発現など新規癌遺伝子の探索と臨床への応用も検討されている.前立腺癌では神経内分泌細胞による前立腺癌細胞の運動能・浸潤能・転移能への影響を中心に研究が行われている.膀胱癌に関しては表在性膀胱癌に対するsurvivinを用いた予防的癌ワクチン療法開発に取り組んでいる.
2)Andrology
  男性不妊症に関しては,精子発生不全とapoptosisとの関係,精細胞増殖やacrosome reactionに関わる遺伝子の研究が行われている.性機能障害では神経再生をキーワードに研究が行われ,とくに骨盤内手術での神経損傷と回復のメカニズム,コラーゲンを含む導管内での神経再生,糖尿病ラットにおけるbasic FGFを利用した海綿体平滑筋障害の予防などで成果が得られており,今後臨床応用に進む予定である.臨床的研究はPDE-5阻害剤の効果,持続勃起症,ペロニー病,射精障害などを中心に行われている.最近注目を集めている男性更年期障害に対しては,validateした日本語訳質問紙を用いた実態調査を行っている.
3)尿路性器感染症
  尿路の局所免疫を研究プロジェクトの中心に置き,緑膿菌感染における尿路の免疫反応,前立腺炎におけるケモカインの役割などについて研究が行われている.臨床的には,術後の適切な抗菌薬投与法や創部感染に関して検討が進められている.性感染症については淋菌,クラミジア,ヒトパピローマウイルス感染の疫学調査,分子生物学的アプローチを含む基礎的研究を施行している.
4)排尿障害
  前立腺肥大症に関する基礎研究として,前立腺間質細胞の分化・増殖に関して成長因子の関与を生物学的,分子生物学的研究を行っている.臨床研究としては,pressure-flow studyを用いた排尿障害の機序の研究が行われている.また,疫学的調査による日本人の前立腺肥大症自然史の解明が進められ,国際的に高く評価されている.

3.診療内容
  泌尿器科全般にわたり診療を行っているが,尿路性器腫瘍に対する手術が多くを占めている.とくに術後自排尿が可能となる尿禁制型回腸新膀胱を利用した膀胱全摘術,勃起機能を温存する神経血管束温存前立腺全摘術などQOLを重視した外科治療,腹腔鏡下腎あるいは副腎摘除術といった低侵襲手術の開発・普及に努めている.男性不妊症に対しても顕微鏡下精路再建術,精索静脈瘤手術などの外科治療を積極的に行っている.非閉塞性無精子症に対する精巣内精子採取術(TESE)は当院産婦人科の他,市内の産婦人科と共同で行いサテライトの中心としての役割を担っている.この他にも時代のニーズに合わせて腎移植を開始し,性同一性障害に対しては国内3番目となる診療体制を確立,さらに女性泌尿器科医師による女性外来もまもなくオープンする予定となっている.

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